久々の読書感想文。
前の『大正浪漫』に続いて2冊目のYOASOBI関連の書籍になります。
目次
『はじめての』 概要
- 著者:島本理生、辻村深月、宮部みゆき、森絵都
- 出版社:(株)水鈴社
- 発売日:2022/2/15
- 頁数:220ページ
- オススメ度:☆☆☆☆☆
直木賞作家4人による短編小説集。
それぞれ「はじめて〇〇したときに読む物語」というテーマで書かれていて、本書に収録されている4つの短編それぞれを原作としたYOASOBIの楽曲がすでにリリースされています。
文字が多くて見やすく、分量も220ページと少ないため、サクッと気軽に読むのに適していると思います。カフェでそれぞれの短編に該当する曲を聴いたりしながら2時間ぐらいで読み終えることができました。
それぞれの話が面白く素晴らしい出来であるということはもちろんですが、YOASOBI関連の書籍が面白いのは「小説・楽曲・映像」の3つの観点から楽しめるということだと思います。僕自身読書は好きな方だと思いますが、1つのストーリーを異なる3つの方向から楽しむという体験はこれまでになく非常に新鮮に感じます。僕は大体は曲を聴いてMVも観てから小説の方にいっていますが、やはり小説の方がストーリーの背景や登場人物の感情といった部分の情報量が圧倒的に多く、小説版を読む前と後で曲やMVの映像の印象が結構変わったりするのが楽しいです。逆に楽曲の歌詞の方がほとんど小説の粗筋のようになっていたりするので、読む前にネタバレが嫌な場合は「小説→楽曲・MV」の順が良いと思います。
楽曲はMVの映像付きのものがYouTubeでフルで観ることができる(当然公式です)ので、本書を読む際は併せて観てみることをお勧めします(どっちを先にするかの順番はお好みで)。
以下、各短編のざっくり感想(多少のネタバレあるので注意)。
①『私だけの所有者』
著者は島本理生。49ページ。
テーマは「はじめて人を好きになったときに読む物語」。
本作を原作とした楽曲は『ミスター』。
アンドロイドの「僕」が監視者である「先生」への手紙の中で所有者との生活を振り返るという形式で進んでいく物語。
短いながら序盤から貼られた伏線もきちんと機能していて、終盤「あ、そういうこと!!」となります。「はじめて人を好きになったときに読む物語」としつつも恋や愛といったワードは(多分)全くでてきていないですが、それでもアンドロイドであるはずの「僕」が持った感情がどんなものかが読んでいてしっかりと伝わってくるストーリー。
作中での語り手である「僕」の一人称の変化と、曲の歌詞の最後のフレーズがリンクしてるのも良かったです。
②『ユーレイ』
著者は辻村深月。38ページ。
テーマは「はじめて家出したときに読む物語」。
本作を原作とした楽曲は『海のまにまに』。
「まにまに」は「~に身を任せて」や「~のままに」の意。
人生を終わらせようと海の見える見知らぬ町までやってきた少女が、夜の海で同い年くらいの不思議な少女と出会って、というお話。個人的には物語と楽曲・映像セットで一番印象的で好きな作品。
基本は主人公の少女の心情のモノローグと2人の会話のみという動き自体は少ない話ですが、読み終わって温かい気持ちになれるストーリー。タイトルからも霊的な話なのかなと思いきや実は…と思いきやさらに実は…と、しっかりと読みごたえある内容になっています。
曲も(MVの映像も含めて)小説を読む前と読んだあとで印象が結構かわる秀逸な作りになっています。
③『色違いのトランプ』
著者は宮部みゆき。57ページ。
テーマは「はじめて容疑者になったときに読む物語」。
本作を原作とした楽曲は『セブンティーン』。
元々楽曲の方が好きで結構聴いていた状態で読んだ作品。
鏡写しのような2つの並行世界、平和なこちら側の日本に生まれた「こちらの夏穂」と、ディストピアのような軍事国家のあちら側の日本に生まれた「あちらの夏穂」を巡るストーリー。
本書の中でもSF色のかなり強い作品。短い中にも世界観を表す独特な用語が多数出てくるので、この手の話に馴染みがない人はついていくのがやっとになりそうかも。
曲と小説はかなり素直にリンクしている印象。前述の通り独自の世界観を持っているので、小説だけではいまいち掴みきれなかった場合にはMVのアニメーションも併せて観てみるといいと思います。ただ、MVで歌詞に合わせてキャラクターが歌っているように口パクしている部分は、口パクしているキャラと歌詞が一致していない部分もあって混乱する(あるいはミスリードをうむ)可能性がある「映像上の演出」として見ると良さそう。
④『ヒカリノタネ』
著者は森絵都。75ページ。
テーマは「はじめて告白したときに読む物語」。
本作を原作とした楽曲は『好きだ』。
単体の小説としては一番読み応えがあってお気に入りの作品です。
比較的わかりやすい十代の淡い恋愛話かと思いきや唐突に現れるSF要素。ただ、SFと言っても「すこしふしぎ」レベルの空気感というか(星新一のショートショートぐらいの感じというか)、SF要素が物語の重大な要素になりつつも、大きく味を変えてしまう要素にはなっていないという塩梅が絶妙。
曲も小説にかなり素直な内容になっていて、読んでから改めてMVを見るとよりほっこりできます。曲としても小説としても完成度の高い良作という感じです。