ゆめろぐ

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【映画感想】『Winny』




2023年3月10日に公開された映画『Winny』の感想です。
元々見るつもりはあまりなかった映画なんですが、たまたま時間が空いたので観に行ってみたらかなりの当たり映画でした。まだ3月ではありますが今のところ個人的に今年1番の作品です。


本作は事実を元にした作品であり、僕個人としても「Winny」の事件や報道については今でも覚えていますが、当時の認識は「違法アップロードに使われていて、使うと意図しないデータ流出をしたりウイルスが入ってくるやばいソフト」ぐらいのものだったと思います。このページに書いていることについては、本作品を鑑賞した(+実際の事件のあらましをwiki等でざっとみた程度)の知識での感想となり、作品内でフィクションとして描かれていることを現実と混同している部分なども多々ある可能性があります。あくまで映像作品への感想として読んでいただければと思います。


また、事実をもとにしている作品であるという性質上、事件の経緯を述べるだけで本作品のストーリーのそのままのネタバレとなってしまう可能性があります。こちらも予めご了承ください。




目次

 


基本情報


画像出典:映画『Winny』公式Twitter(@winny_movie)

 

  • 監督:松本優作
  • 公開:2023年3月
  • 評価:★4(最高★5)

 
感想に行く前にざっと史実としてのWinny事件のあらましを。以下は鑑賞前の予習としてwikiやYoutube動画で見た内容を自分用にざっとメモしたものです(間違いがあったらごめんなさい)。
 
まず「Winny」について。「Winny」は元東京大学大学院情報理工学系研究科助手の金子勇氏によって開発されたP2P技術(複数のコンピューター間で通信を行いデータをやり取りする方式)を用いたファイル共有ソフト・電子掲示板構築ソフト。一般的なクラサバ方式に対して機器故障や回線負荷の集中に強く、簡単に大容量のファイルを共有することができ高い秘匿性を持っているため公開された後に悪意を持ったユーザーによる著作物等の違法アップロード・ダウンロードの温床となってしまい社会問題になった。また、業務に利用するPCで「Winny」を使用したことにより意図せず社内の情報を漏洩させてしまうという事件も多発し、報道の過熱も相まって「違法行為に使われ、利用者の情報も流出する可能性のある危険なソフト」という認識が広まっていった。
 
今となってはP2Pと聞いてすぐに「ブロックチェーン」「仮想通貨」などの言葉が浮かぶ人も少なくないとは思いますが、最初期の「Winny」が開発されたのは2002年と言われており、まだYoutubeやTwitterも存在しなかったような時代です。そう考えると本当に先進的な技術であり、それをほぼ独力で開発した金子氏がいまだに「天才プログラマー」と称されているのも理解できます。
 
以下は「Winny」が公開されてからのざっくりとした経緯。

  • 2002年:初期型の「Winny」がネット上に公開される
  • 2003年:違法アップロードを行っていた数名の利用者が著作権法違反容疑で逮捕・起訴される
  • 2004年:開発者の金子氏が著作権法違反幇助容疑で逮捕・起訴される
  • 2006年:金子氏、地裁で有罪判決となる。その後控訴
  • 2011年:高裁での逆転無罪判決を経て、最高裁で金子氏の無罪判決が確定

 
本作も上記の経緯に沿って忠実に描かれており、この事件の中心人物となった開発者の金子氏を東出昌大さんが演じ、弁護をした壇弁護士を三浦貴大さんが演じていてダブル主演のような形になっています。



感想など

全体の感想

まずは全体の感想から。
評価は★4(最高★5)としました。


実はあまり作品についての事前情報を入れておらず、なんとなく当時のネット事情のわちゃわちゃを描いた群像劇的なものをイメージしていたんですが、実際のところはがっつり法廷劇という感じの内容でした(予告見てなかったのが悪いんだけど笑)。ただ、退屈さとか単調さとかを感じることもなく最後まで入り込んで観れたと思います。法律用語もバンバン出てきますが、物語を理解するうえで必要な部分はしっかりとわかるように示してくれていたので、知識ほぼゼロで見たとしてもしっかりと物語も楽しめて「Winny事件」の経緯も理解できるという造りになっていたと思います。ドキュメンタリーのように淡々としたペースだけで進んでいったわけではなく、盛り上げるべき部分にはしっかりとメインの主人公2人を中心とした人間のドラマが描かれていたのが感情移入・没入感を高める要素となっていたと思います。史実をなぞるリアリティの面と、物語としての(多分創作の比率多めの)ドラマの面のバランスが良く取れていたのがよかったんじゃないかと思います。


そのため、普通に1つの作品としてストレートにめちゃくちゃ面白かったと感じる作品でした。「邦画もまだまだ捨てたもんじゃない!」って思わせてくれる良作だったと思います。


 

主演の東出昌大さんが凄い

本作を観てまず一つ確実に言えると思ったのは、「やっぱ東出昌大って天才だわ!」ということ。

やっぱり演技が凄い上手いです。前述の通り、「Winny」開発者の金子勇氏という実在した人物の役だったわけなんですが、観ていて「なるほどそういう人柄だったんだな」というのが伝わってきましたし、最後に流れた金子氏本人の映像と見比べてみても違和感がなかったです。天才肌で生粋のプログラマー気質(専門分野以外はからっきりで他者とのコミュニケーションも得意ではないということでいわゆるオタク気質と言ってもいい)な人柄が完璧に表現されていて、劇中にあった「著作権侵害をするために作ったわけではない」「ではなぜ作ったかというと、作れると思ったから(劇中では”そこに山があったから登った”とも)」という立ち位置にしっかりと説得力を持たせていたと思います。こういったキャラクターの気質・本質にかかわる部分って、ぐだぐだセリフで説明されるよりもそれを一発で納得させる演技で見せられた方が見る側としてはすんなり入ってくるし、逆にそれができてないと見ている側のキャラ像がブレてストーリーに入り込めないと思うので、文句のつけようのないベストなキャスティングだったと思います。 


東出さんというと個人的に印象深かったのはやっぱり『聖の青春』での羽生さん役(マジで羽生さんだった)。他にもドラマ『あなたのことはそれほど』でのヤバい感じの夫の怪演もそうですが、リアリティというか完璧に役が憑依している感じというか、物語の人物であっても「マジでこの人存在してそう」と思わせる雰囲気が凄い。その意味では本作や『聖の青春』もそうですが、実在の人物をモデルにした役というのはめちゃくちゃ合ってる俳優さんなのかもしれません。



捨てキャラのいない名優陣

もう一人の主人公とも言える壇弁護士役の三浦貴大さんも凄く良かったです。
もう片方の主役の金子氏(東出さん)が天才肌で常人からはつかみどころのない人物に映る一方、壇弁護士の方は社会の良い面も悪い面もしっかりと心得ているいわゆる普通の常識人であり、情熱や人間味をもった人物。本作を観る側(観客)の視点が入り込みやすい(感情移入しやすい)のはこちらのキャラクターの方だったんじゃないかなと思います。タイプとしては全く違う二人だからこそ理解を深めあっていく部分にドラマ性が生まれていくわけですし、壇弁護士の視点を介することによって観客も金子氏の人物像・人間性・善性といった部分を徐々に理解していくという物語に入り込みやすい構造ができていたと思います。


他、脇を固めるキャラクターも存在感の光る名優が多くて捨てキャラのいない感じがよかったですね。大人の事情で出てきたような棒読みアイドルとかいないし。吹越満さんのベテラン弁護士はカッコよかったし、渡辺いっけいさんの「このヤロー」と言いたくなるような憎たらしい刑事役も最高でした。



ちょっと謎だった愛知県警パート

本作ではメインとなる「Winny事件」パートと並行して、吉岡秀隆さんの演じる刑事を中心とした愛知県警の裏金事件パートが進んでいきました。

個人的にはこのパートの意味がちょっと謎で、中盤ぐらいから結構しっかりと描かれていたので最終的にどこかで本筋に関わってくるのかと思ってたら特段そうでもなくといった感じでした。厳密には裏金事件の告発に最後の最後でWinnyが役立ってはいた(Winnyの正しい利用方法が示された部分ではあるけど)ものの、そこまで本筋側に影響があったようにも描かれていなかったし、吉岡さんの刑事もこの後どうなるのかフワッとした状態で終わってしまった(こちらも実在の人物なのでwikiとか見ればその後はわかりますが)ように感じてしまいこの部分は少し消化不良。



Winny事件について(チラ裏)

 
最後に本作からは少し離れる部分もありますが、本作の元となった「Winny事件」について感じたことをざっと。

本作自体が明確に「誰が悪かった」と示していたわけではなく、観客に「これを見てどう感じたかは各々が自分で考えなさい」と言っているように(少なくとも僕はそう)感じたので、本作とwikiを見た程度の浅い知識をベースにしたこれまで以上のチラ裏な内容ではあるものの感じたことを残しておこうと思いました。あと、「良い」「悪い」を言及している部分については、「そもそもWinnyを悪用して違法UL/DLをした奴が間違いなく確実に一番悪い」という所はもういちいち言うまでもない大前提として省いています。


Winnyの事件は当時ニュースでも凄い報道されていたんで結構印象に残ってました(もちろん僕自身は手は出してない)。詳細はちゃんと理解したのは今回本作を観てからだったんですが、結局何が正しかったのか何が正義だったのかは観た後もはっきりわからなかったな、というのが正直な印象です(悪い意味ではなく前述の「各々自分で考える」余地があるという意味で)。ただ、個人的にはやっぱり何年か早かった技術だったのかなとは感じました。いくら技術は素晴らしくて画期的でも、扱うユーザー達の知性・リテラシーや法整備も全く追い付いてなかった(今現在追いついているかと言えば全くそんなことないですが)。劇中の「ナイフで殺人をしたとして、ナイフを作った人は罪に問うべきなのか」の例えを用いるとすると、「ナイフ自体に罪がないことは間違いないが、強盗などの犯罪多発地域でナイフを配るような行為は果たしていかがなものか?」って感じかな。要はこの手のシステムって性悪説に基づいて(悪用して悪いことするバカは絶対いることを前提に)仕組みを作らないと無法地帯化するんじゃないかと思います。その点で劇中の描写(警察が悪意ある取り調べをするわけないと考えていた点など)を踏まえると金子氏は性善説に寄った考え方の人だったのかなと感じました。そのあたりも踏まえて、リスク面や法制度対応・行政への対応などの面で守ってくれる企業や研究機関なんかと一緒に事を進めていたらもしかしたらまた違った結果だったんじゃないかとか思ったりしました。


あと警察組織について。まあ本作を観ると「警察クソやん」って感じにはなるとは思うんですが、実際に「Winny」が社会問題になっていた当時って違法アップロードはマジで無法地帯だったし、(ちょっと陰謀論的な考えに行っちゃうかもですが)警察なのか行政なのかが「清廉潔白なやり方ではないにしてもああして大本を潰すしか社会的に収集を付ける方法がなかった」みたいな感じというか空気みたいなのが世の中全体にあったのかもしれないな、とは感じました(要は見せしめ・生贄ってことなので良いことではないのは確かなんだけど)。この映画を見て「金子氏の逮捕は不当だったと思いますか?」と聞かれたら「YES」と答えると思いますが、「じゃどうすればよかったと思いますか?」と聞かれると苦しい…みたいな。観終わった後まで色々考えさせられる、その意味では非常に良い映画であると思いました。



総評

改めて本作の評価。

評価:★4(最高★5)


久々に観てる間もその後も色々頭使った映画だったし、感想も文字たくさん打った(文字数いつもの倍ぐらいになってた)から疲れた(笑)。ただ、その意味では充実の映画体験をさせてくれた良作だったことは間違いないと思います。繰り返しになりますが、「邦画もまだまだ捨てたもんじゃない!」と思わせてくれる作品だったと思います。


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