大きな話題を生んだドラマ『半沢直樹』シリーズの最新刊を読みました。
実はお恥ずかしながら半沢シリーズどころか池井戸さんの作品を読むのは今回が初めてでした。
半沢直樹 アルルカンと道化師
- 著者:池井戸潤
- 出版社:講談社
- 発売日:2020/9/17
- 頁数:344ページ
- オススメ度:☆☆☆☆☆
半沢直樹シリーズの最新作。シリーズ五作目ではあるが、時系列的には第一作の前の話であり現時点でシリーズ中で最も前の話になっています。半沢がシリーズ開始時に在籍していた大阪西支店に赴任した直後の話。
そのため過去作を読んでいなくとも問題なくストーリーに入っていけると思います(実際僕も他のシリーズ作品は未読だが問題なかった)。半沢や渡真利のようなメインキャラ以外にもドラマを見た人には俳優さんの顔が浮かぶような登場人物も複数登場。各所で宣伝されているようにドラマを見終わって「半沢ロス」となっている原作未読の人にも、手に取ってみるのにちょうどいい作品となっていると感じました。
さて、前述の通り池井戸さんの作品は初めてだったんですが、まずなにより文章が読みやすかった。そしてテンポのいい展開と段階的に明かされていく伏線と謎、そして最後に悪党に倍返しを食らわせる黄金パターンの盛り上がりもあって、一気に最後まで読んでしまいました。今回絵画に隠された謎を追うというミステリー要素も加えられた内容になっていますが、そもそも半沢シリーズが隠された陰謀や罠を解き明かしていくような展開のため違和感もなし。また、M&A・のれん代のようなワードもちゃんと解説が入るので金融知識がなくても楽しめる。繰り返しになりますが、原作は未読だけどドラマの半沢直樹を見てはまったという方でも楽しめる内容となっています。本作を読んだ流れでもとのシリーズ4作品を読んでいくのもいいかもしれないですね(僕はそうしようと思っています)。
最後に印象に残ったワードをいくつか。
こと銀行という組織では、石を投げれば人でなしに当たる。
(13ページ)
これは半沢シリーズを見ていると納得ですが、実際の銀行はどうなんだろうと純粋に気になる。読めば読むほど銀行不審になりそうなシリーズである(笑)
正義の味方はバカでもなれるが、悪党になるには才覚がいる
(46ページ)
これを発言しているのは紛うことなき悪党で最後には半沢にばっちり倍返しされるわけなのだが、何となく納得してしまって印象に残る言葉。
敵も多いが味方も多い。(中略) だけど、味方は圧倒的なシンパばかりなんだそうです
(294ページ)
半沢の部下の本多の言葉で、行内での半沢の評判。半沢と言えばあの派手で攻撃的な物言いが印象的だが、本質は他者を味方として取り込んでいく(以前は半沢と敵対していたものすらも)所に強さがあるようにドラマを見ていても感じます。これはドラマでも言われていた「感謝と恩返し」という言葉に現れているように、相手に対しての誠実な態度の賜物なのかな。だからこそ、その点を見落としたままでドラマの上っ面の影響だけを受けて現実世界で「エセ半沢」のような態度をとってしまう奴はただただイタい奴でしかないんだろうと思う。気を付けよう・・・。