2023年7月7日に公開された『Pearl パール』の感想です。
『ミッドサマー』のA24が送る古き良きB級エログロスプラッタースラッシャーホラー3部作の2作目。1作目の『X エックス』も劇場で観ていましたが、アメリカでの公開からまるまる1年遅れてようやくの日本公開となりました。
以下、本作のネタバレを一部含んでいる場合がありますので予めご了承ください。
目次
基本情報
画像出典:公式Twitter(@xmovie_jp)
- 監督:タイ・ウェスト
- 公開:2023年7月7日(アメリカでは2022/9/16)
- 制限:R15+
- 評価:★3.5(最高★5)
原題は『Pearl』。
舞台は1918年、テキサス州の片田舎。前作『X エックス』の約60年前。前作で史上最高齢の殺人鬼として登場したパールの若き日の姿が描かれている。パール役は前作で主人公マキシーンと老婆パールの一人二役を演じたミア・ゴス。すでに3部作となることが発表されており、本作はその2作目にあたる作品。
映倫による年齢制限はR15+(15歳以上が視聴可能)。映倫のHP(映画倫理機構(映倫))によると「刺激の強い殺傷・出血、及び性愛描写がみられ、標記区分に指定します」。前作では性愛描写の記述のみでしたが、本作ではゴア表現も加えられています。
感想
救いも希望もないスラッシャーホラー
「ザ・A24!!」といった感じの救いも希望もないスラッシャホラー。映画冒頭はアメリカの片田舎でスターを夢見る女の子、といった感じでディズニーの実写映画かなんか(『メリー・ポピンズ』的なの)にも見えなくない雰囲気でしたが、結構早い段階で本性を見せてくるパールが印象的でした。あとはもうほとんどパール一人を映し続ける100分間といった感じ。
個人的には単体の作品としては前作の方が楽しめたと思いますが、全体的なヤバさで言えば本作の方が上だったと思います。いい意味で「イヤなもん見た!!」と言える気分になれる良いホラーだったと思います。基本パール以外は善人しか出てこない(=善人しか殺されない)バリバリの理不尽ものではありますが、あまり不快感とか胸糞的な感じの後味にはならなかったかなと思います。
最初っからヤバイ奴だった!!(ネタバレあり)
とにかく本作の主人公パールには全く一切の共感も感情移入もできないというのが観終わった後の印象でした。
鑑賞前は「映画史上、もっとも無垢なシリアルキラー誕生」というキャッチコピーを見て、「純真無垢な少女だったパールが、つらい境遇や大変な目にあったりしていく中で徐々に自分の中に眠っていた狂気を目覚めさせてしまう話」的な話なのかと予想していました。「彼女がシリアルキラーになったワケ」的な話と思っていたんですが、実際のところは全く違っていて「ヤバイ奴は最初っからヤバイ奴だっただけの話」でした。パールはかわいそうな事情もやむを得ない背景も大してなく、単純に最初っからマジでヤバイ奴です。
前作の中で言っていた「戦争があって思っていた人生にならなかった」というのも別にそんなことなく元から彼女の人生はうまくいってなかったし、とにかくつらい境遇やうまくいかない人生への憤りを誰かにぶつけているだけのまさしくシリアルキラーです。前述の通り本作で被害者として出てくる人物は基本善人なので、なおのことパールの身勝手さが際立っています。確かに多少境遇に同情できる点が無いことは無いと思いますが、それで彼女のしていることが容認できるかと言うと全くそんなことは無いですし、当時の時代背景を考えればそこまで特別悲惨な境遇でもないように見えました。例えば他作品で言えば『ジョーカー』のアーサーの方がよっぽど同情も共感もできる奴だったと思います。
とにかく自身の欲求・感情に対してという意味で言えば、確かに非常に無垢なキャラクターだった、とは言えるかもしれません。
ミア・ゴスという女優の凄み(ネタバレあり)
そんな感じで最初っから最後までヤバイ奴だったパールですが、それを1本の作品として面白く魅力的に見せているのはミア・ゴスという女優の凄みみたいなものがあったからなんじゃないかと思います。
やはり印象的だったのは終盤にあった約8分間のワンカット長回しのパールの独白シーン。通常の作品であれば会話の相手であるミッツィ(彼女も悪い女的なキャラかと思ったら本当にただのいい娘だった…)に定期的にカットが切り替わってリアクション(恐怖の表情等)を見せるのが一般的かと思いますが、完全にパールが憑依しているかのようなミア・ゴスの8分間の一人語りのシーンは印象的でした。
個人的には前作の『X エックス』を観るまではミア・ゴスのことは知らず、客観的にみても正直そこまでメジャーな女優ではなかったかと思うのですが、「彼女を広く世に出すための3部作」だったと言ってもいいかもしれないほど特に本作はミア・ゴスの凄みが全面に出ていた作品だったと思います。
背筋の凍ったラストシーン(ネタバレあり)
もう一つ印象的だったシーンはやっぱりラストのパールの笑顔だけが流れるシーン。
いままでにないまったく新しい形で背筋が凍りました。観ているときの感覚では1~2分ぐらいかと思っていたんですが、鑑賞後に聞いたところによると5分半にも及ぶシーンだったようです。正直ラスト前までは今までにもないことはなかったホラーというか、ストーリー的には比較的平凡という印象で評価も「★3ぐらいかなー」なんて思っていたんですが、あのラストシーンを観て★3.5にしました。ミア・ゴスの表情からパールのヤバさ・狂気なんかがこれでもかと発されていて、めちゃくちゃ印象に残るシーンだったと思います。
3部作の2作目
前述の通り本作ははじめから3部作であることが決まっている中での2作目でした。
前作の感想にも書きましたが、『X エックス』の中でパールがマキシーンに言った「正体を見た」「秘密をバラす」といった言葉の意味を考えてみると、恐らく3作目(原題『MaXXXine』)はマキシーンの奥底にあった本質、パールと同じシリアルキラーとしての本性が開花するといったような話になるんじゃないかと思っています。タイトルの中に「X」が3つ入っているのも中々に意味深です。
総評
改めて本作の評価。
評価:★3.5(最高★5)
古き良きB級エログロスプラッタースラッシャーホラー映画の2作目でした。前作同様、こちらも夏にぴったりの映画ですね。
現時点で続編となる3作目(原題『MaXXXine』)の公開日などはわかっていません。現状はYouTubeに短いトレイラー映像は上がっているぐらいで、『X エックス』の6年後のロサンゼルスが舞台になる模様。ここまで来たら最後の3作目まできちんと劇場で見届けたいと思うので、一日も早い日本公開を楽しみにしたいです。