Jドリーム(飛翔編)/塀内夏子
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【あらすじ/概要】
ドーハの悲劇と呼ばれる試合の後、姿を消していた鷹だったが、スペインのサクラダ・ファミリアでとび職として働いていたところを偶然、観光客に発見され半ば強引に、イタリアで行なわれるFIFAワールドユース選手権に出場するU-20日本代表にキャプテンとして加えられる鷹。そのため苦しいアジア予選を戦い抜いた既存のメンバーからの反発にさらされるが、試合を重ねて行く中で心を通わせていく。また、ユース代表の若い面々が各々に様々な悩みや事情を抱えており、大会を戦う中で助け合いそれを乗り越えて成長していく。ユース代表と言うカテゴリーで若い選手の集団ということもあり、シリーズの中で最も青春物の色が強い。本編であるWユース大会の物語は第9巻で完結しており、その後スペインに渡った鷹を中居と浜本が訪ねる番外編と、実在の選手松永成立の半生やドーハでの物語を漫画化した読みきりを収録したものを、第10巻として発刊している。
【基本情報】
作者: 塀内夏子
雑誌: 週刊少年マガジン
連載: 完結済
巻数: 10巻(単行本)、5巻(Kindle)
前編: 無印編
続編: 完全燃焼編
【データ】
国内――――――――――海外 *1
現実☆☆☆☆☆★★★★★奇抜 *2
クラブ☆★★★★★★★★★代表 *3
戦術☆☆☆☆★★★★★★個人 *4
※個人の感覚です。
※ワールドユースのみを描いた作品のため「国内/海外」は評価なし。
【こんな人におすすめ】
- 衝突を繰り返しながらチームとして結束・成長していく熱い人間ドラマが好きな人。
- 読んでいて感情を揺さぶられるような、キャラクターの内面描写が上手い漫画が好きな人。
- 若さ溢れる青春ものが好きな人。
- Jドリームシリーズ他、塀内さんのサッカー漫画が好きな人
【レビュー】
Jドリームの青春編。主人公の赤星鷹は前作ではフル代表の大人たちに交じってプレーをする期待の新星だったが、今作では同世代の若いメンバーとともにワールドユースを戦っていきます。
ユース編ということで、僕が好きなベテラン選手たちは出てこないんですが、その分若いメンバーが最初は衝突し合いながらも次第に認め合い助け合うようになりながら世界の強豪に立ち向かうという、シリーズの中では一番王道な少年サッカー漫画になっています。
作者の塀内さんは元々キャラクター内面描写に定評のある方ですが、本作は特にそれが強く現れていたように思います。キャラクターが全体的に若いので、感情をストレートにぶつけ合うシーンが多いからかもしれません。
モノローグ(心の声)の使い方もいいんですが、何よりもキャラクターの表情が素晴らしいです。単純に絵が上手いというだけではなく(もちろん上手いんですが)、場面ごとの登場人物の心情がその表情に現れています。キャラクターの表情がもつ情念(?)のようなものに、いつのまにか引き込まれて強く感情を揺さぶられます。
※以降ネタバレも含まれるので注意。
【忘れられない名台詞】
それがどうした
一度負けたらサッカーは終わりか!?
オレは違うぞ!オレは何度だって挑戦する!たとえ相手が赤星だって!
絶対「10番」は奪い返す!
日本代表 迫丸瞬 (単行本1巻)
鷹との対決に負け、キャプテンを明け渡したことを揶揄されたシーンで。
初めて主人公の鷹と対等に競いあったライバルです。そんな彼も試合を重ねるにつれ鷹を認め、鷹からも認められ続編の最終章までの鷹の相棒になっていきます。鷹と迫丸の友情も本作の見所のひとつですね。
苦しい家庭の事情を背負い時に苦悩するシーンもありながら、ひた向きにまっすぐに進んでいく、まさに少年サッカー漫画を体現するようなキャラクターです。
血まみれで走った中居のために
PKをふせいでくれたシンのために
そしてみんなのために!1点を!!
日本代表 赤星鷹 (単行本6巻)
準決勝アルゼンチン戦で。
本作のベストバウトとも言えるアルゼンチン戦。足を血まみれにしながら(やや自業自得の感はあれど)走り続けてリタイアした中居、そしてアルゼンチンとは因縁浅からぬGK浜本シンのPKストップ。仲間たちの思いを背負って同点ゴールを目指す!これぞ王道、これぞ青春編!
そして同点となったシーンの迫丸君の粘りからの頭での執念のパスもよいです。
最後まで独裁を貫いたビーベと
中居のために走った鷹と!!
その差が勝負をきめたと信じたい
日本代表トレーナー 小林宏(単行本7巻)
同じく準決勝アルゼンチン戦の終了後に。
アルゼンチンの「マラドーナ2世」、ビーべにさんざん苦しめられた日本は紙一重の勝利でした。日本のエースとアルゼンチンのエース、勝敗の差を分けたものは何か。それについての「影の主役」たる小林トレーナーの考察です。
ピッチをでてロッカーに向かうビーべを日本イレブンが敬意・畏怖など入り交じった複雑な表情で見送るなか、見開きのページの隅っこで小さく手を叩いて(称賛の拍手)いる小林さんがよいです。
この飛翔編で強く描かれている、「仲間のために」というポイントが一番現れていた間違いなく名勝負でした。
また、時を少し遡って試合の終了間際。勝利を目前としていた日本がビーべのスーパーゴールで同点に追い付かれ、イレブンたちが肩を落とすシーン。
中居の代わりに走ったため一番消耗し、もう立つ力の残っていなかった鷹に、チームメイトが駆け寄り声をかけていきます。
このときの小林さんの「鷹!立てた!みんなに立たせてもらったな…」も名言の1つです。
兄さんの名誉が守れたよ!
そして、何よりも・・・
大好きだったアルゼンチンが強いチームでよかった…
日本代表 浜本真 (単行本7巻)
アルゼンチンと日本両方の国籍を持ち、日本代表になることを選択したシン(浜本真)。
アルゼンチン代表には因縁のある相手もいて、彼もアルゼンチン戦でクローズアップされたメンバーの一人です。
たた、シンは試合中よりもアルゼンチン戦の後の方が色々と焦点を当てられることが多かったです。
オレたちが、おまえを!
失うんだ!永久に!
その悔しさがわかるかっ…
せっかく…世界と対等に戦えるようになったのに…
日本代表 柳木一成 (単行本7巻)
アルゼンチン戦のあと、GKのシンが過去にアルゼンチン代表としても試合に出ていた疑惑がかかり失格になるかというシーンで。
シンはアルゼンチン代表として試合に出ていたことを隠していましたが、柳木の怒りはそこではなく台詞の通りでした。いつも物静かな柳木がシンのために仲間のために怒りそして悔し涙を流す、作者の塀内さんの本領発揮といっていいんじゃないかと思える熱いシーンでした。
その後無事疑惑は晴れるわけですが、冷たいぐらい落ち着いていたように見えて、密かに疑惑を晴らすべく調査をしていた立浪もよいです。
疑惑発覚→柳木の激昂→立浪の「FAXきてる?」→潔白が判明してからの鷹の「ばんざーい」→で、皆で喜ぶ。(細かすぎる…。伝わる人にだけ伝われ!)
これが地味に本作で一番印象的な流れです。
兄さん
さようなら(アディオス)
…永遠に
日本代表 浜本真 (単行本7巻)
上記の疑惑解消のあと、亡き兄の夢を見て目覚めたシンのモノローグ。
その生い立ちと性格からどこにいっても常に孤立していたシンが初めて自分のために怒り泣いてくれる仲間を持って、心の拠り所としていた兄といい意味で決別した本作一の泣けるシーンです。
少しバカみたいになろう・・・と
いや、死にもの狂いになろうと思って・・・
日本代表 立浪誠 (単行本8巻)
イタリアとの決勝戦。
イタリアの悪ガキ、ビアンキに身体をつかまれた立浪がビアンキを背負い投げで投げ飛ばしたシーン。
本来なら1発レッドですね笑。
「優等生」立浪のこの行為に、唖然とする仲間たち、一人喜んでる鷹、投げられたビアンキの表情、笛がなって我に帰る立浪、すべてが最高でした。
GKは一度だって死ぬわけにはいかないが
FWは10回でも20回でも死ねるんだ!
こっちが有利だ!
もう少しだ、風は日本(こっち)に吹く!
日本代表 赤星鷹 (単行本8巻)
決勝戦でイタリアにリードされ、残り時間が減っていくなかでスルーパスからの中居の突破に賭け続ける日本代表。
FWは例え10回外しても11本目が入ればいい、なんて言われたりしますね。
また、中居といえば最後のPK戦で初めてゴールを決めて泣きじゃくる所も印象的でした。
中居は話が進むにつれてだんだんと等身が小さくなり可愛い路線に向かっていってましたね。
あと1点!あと1点!
あと1点とって勝ちたい!勝ってワールドユースをおしまいにしたい!
でも・・・
終わらなければいい・・・とも思う
日本代表メンバー (単行本9巻)
イタリア戦の最後の最後、同点で迎えた延長戦で。
このころは確か延長戦はVゴール(どっちかが1点とったら終了)だったはずなので、本当にあと1点とれば終了で優勝です。
ただ、この楽しい時間が終わらないで欲しいという気持ちもある。これは読者も同じ気持ちだったかもしれません。
…みんな
オレに力を貸してくれ!
日本代表 赤星鷹 (単行本9巻)
そして延長戦でも決着がつかず勝負ははPK戦へ。
両GKの活躍で最後の一人同士の対決となった日本とイタリア。最後のキッカーとなった鷹が蹴る前に仲間たちにかけた言葉です。終盤になる頃にはメンバー同士の信頼ができており、序盤の鷹からは絶対に出なかったであろう台詞です。
ちなみに見開きの端にベンチのスタッフ等も描かれていて、特に身体はでかいが小心者の北村が完全に見ていないのがよいです。
CI VEDIAMO IN FRANCIA!
(フランスで会いましょう!)
滑走路に書かれていた文字 (単行本9巻)
イタリア語です。大会が終わり、イタリアを発つ日本代表メンバーに向けて滑走路に書かれていたメッセージです。
このイタリア語の「チベティアーモ(また会いましょう)」は本作でもうひとつ重要なシーンで出てきました。アンジェかわいいよなぁ。
そして日本代表に向けられた言葉は「フランスで会いましょう」です。本作は見事ワールドユースを優勝しましたが、すべてはこのあとの1998フランスワールドカップ予選を勝ち抜くためでした。
さいごに
次は最終章となる完全燃焼編です。無印編でドーハの悲劇を経験したベテランたち、本作で勢いを見せた若いメンバー、最終章ではそれらが融合しワールドカップ初出場の夢をつかむために厳しいアジア予選を戦います。
当然そこには敵との戦いだけでなく、仲間とのポジション争いや様々な苦悩・葛藤も描かれています。
是非、前作→本作→次作と流れで読んで頂きたい名作です。
【前編です】
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【続編です】
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