LOST MAN/草場道輝
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【あらすじ/概要】
記憶喪失の日本人と思しきプロサッカー選手・マツモトと、マツモトの能力を活かしてサッカービジネスのマネジメントをする代理人・サカザキが、行く先々のサッカークラブにビジネスを持ちかけ、マツモトの能力でクラブに貢献するというのが大まかなストーリー。
単なるサッカープレーだけでなく、その裏には大手企業による弱小クラブ潰し、伯爵家の跡継ぎを巡る殺人事件などの背景があり、物語に深みを与えている。
【基本情報】
作者: 草場道輝
雑誌: 週刊ヤングサンデー/ビッグコミックスピリッツ
連載: 完結済
巻数: 17巻(単行本)
【こんな人におすすめ】
- サッカーウンチクや往年の名選手、戦術論などを語るのが好きな人。
- イングランド、プレミアリーグが好きな人。
- ファンタジスタのシリーズが好きだった人。
- 話の進行につれて謎が明かされていくミステリー、サスペンスの要素も併せて楽しみたい人。
【レビュー】
先日レビューをしたファンタジスタシリーズと同じ作者のサッカー漫画です。
ファンタジスタが高校サッカーから始まった主人公の成長を描いた物語であったのに対し、こちらの主人公マツモトは既に選手としては完成している大人のキャラクターです。しかし、出自や記憶喪失の理由などは物語冒頭でははっきりしておりません。
このマツモトが様々なチームを渡り歩きながら「勝利請負人」として活躍します。基本的にはこの流れですが、ストーリーが進むにつれて徐々にマツモトの正体や記憶喪失の謎が明らかになっていきます。
現実的かつ堅実でありながら息をつかせない興奮の試合展開は、ファンタジスタから変わらず健在です。さらに主人公マツモトの記憶喪失の謎、さらには大きな敵に命を狙われているというサスペンス要素も入って、「オトナのサッカー漫画」となっています。
そして物語後半の舞台となるのは現状世界でも1、2を争うトップリーグといってもいい、イングランドのプレミアリーグです。激しい身体のぶつかり合いなどプレミアならではの要素も見事に描かれており、プレミアが好きは人はせめて物語の後半からだけでも(オイ)読まれるのをおすすめします。
現実の選手・チームを彷彿とさせる選手やチームも登場(レアルマドリーやシティなど)していて、モデルとなった実在選手を見つけていくのも中々楽しいものです。
※以降ネタバレも含まれるので注意。
【忘れられない名台詞】
我々は勝利請け負い人だからです。
サカザキ (単行本3巻)
この作品のキーワードとなる「勝利請け負い人」。最後まで度々この言葉が登場します。
ちなみに「勝利請け負い人」と「勝利請負人」の両方の表記があるのはご愛敬。
草場さん相変わらずおっちょこちょいね♪(10年以上のファン並感)
あなたを殺してもいいですか?
イリアーヌ (単行本4巻)
前後の文脈なしだと刃傷沙汰のシーンみたいですね。代理人サカザキの策略で突如ライバルチームに移籍したマツモトへの思いを絶ちきり、またマツモトにも後ろめたさなく試合に望めるように放った"冗談"。
最後までイリアーヌはいい女だったなあ。
このフレーズは石川さゆりさんの「天城越え」から取ったんだそう。
サポーターが諦とらんのに、
お前らが諦めてどないすんねん!!
サポーターに恥かかすな
ドアホ!!
ローカスツFC マツモト (単行本5巻)
因縁のダービーマッチで戦意を喪失しかけていた元チームメイトに対して。
現実にサポーターとしてチームや選手を応援することが多い身としても、心に響く言葉です。
だからイングランドのフットボールは熱い!!
サカザキ (単行本5巻)
もうその言葉の通りです。
後半からの舞台はフットボールの母国、イングランド。ちなみにここから「サッカー」という言葉は出てこなくなり、「フットボール」という言葉に統一されます。
ちなみに実は「サッカー」はアメリカや日本など少数の国でメインで使われていて、発祥の地イングランドを中心に欧州圏では「フットボール」が使用されます。
FIFA(国際的サッカー連盟)の2つ目の"F"がフットボールです。また、JFA(日本サッカー協会)の"F"もフットボールです。
略称はF(フットボール)が用いられるのに、日本語訳すると「サッカー」が使われているのが不思議なところですね。
最後の最後まで何が起きるかわからんのがフットボールちゃうんか!!
マツモト (単行本6巻)
マンチェスター・ユニオン(マンチェスター・ユナイテッドがモデル)の入団テストで。
終了の笛が鳴る瞬間まで何が起きるかわからないのがフットボールです。
そしてそんな最後の数秒に試合を決めるゴールが入るなんてことも"稀によくある"のがフットボールです。
これがあるから現地観戦の時は帰りの電車が混むのはわかっていても、終了10分前とかに帰ることができないんですよね。
ギフテッド・・・
"神に与えられし才能"とでも言うべきかしら。
彼ほどボールを持ったたたずまいが、
絵になる選手をアタシは見たことがないわ。
マンUスカウト カーリンソン (単行本6巻)
ギフテッド、神に与えられた才能。
主人公マツモトのライバルであり、最終的には本編のラスボスとなるシンプソンを評する言葉です。
やはりこの作者さんの描く「天才的なライバル」は非常に魅力的です。
ちなみに「ギフテッド」とは、「贈り物」を意味する「gift」から来た言葉(過去分詞形?)で、現実の世界でも使われています。
そもそも「gift」は「才能・資質」を意味する言葉として使われることもあり、ギフテッドは「生まれつき(神や天から)才能を与えられた人」といったところでしょうか。才能を神や天に与えられたものと表すのが、素敵な表現だと思っています。
さあ…世界に衝撃を与えてこい!!
サカザキ (単行本7巻)
マツモトのマンチェスター・ユニオンでのデビューとなる試合で。
ちなみに作中ではマンチェスター・ユニオンのことを「マンU」と略していますが、モデルとなった実在のチームであるマンチェスター・ユナイテッドをそう略すのはあまりいい意味ではないため避けられています。日本のネットニュース等では普通に「マンU」と記載されることも多いですが、それなりに詳しいファンは「ユナイテッド」と呼ぶことが多いようです。
まあ、作中のチームと現実は別物と言うことで。
神は言われました…
新しい価値観・真理、すなわち…
天に開いた、門を見よと…
マンU アルバート・シンプソン (単行本11巻)
聖書の言葉からかな?
チームの中でマツモトの存在感が大きくなり、自身の影が薄れたと揶揄されての返し。
ちなみにこのセリフはヨーロッパチャンピオンズリーグでのレアル・マドリードFC(モデルはレアル・マドリード)戦でのものですが、この試合は作中のベストマッチといえる試合であり名言もたくさんありました。
神さんちゃうやろ…
一度やられたやつには意地でもやり返す…
それが、フットボールにしがみついて生きるっちゅーことや!!
マンU マツモト (単行本11巻)
同じくマドリードFC戦で。マドリードの「ギフテッド」であるサウル・グランディス(モデルはラウル・ゴンサレス)との1対1を制したシンプソンに対して。
過去の「ある事件」からプレー中の相手との接触を極端に避けるようになり、常にその罪を懺悔しながらもフットボールからは離れられないシンプソンでした。しかし、マツモトとプレーをするようになって少しずつ変調の兆しを見せ始めました。
お前は本当に勝つ気あるんか?
フットボールにしがみついとるっちゅーエゴを神さんに懺悔するゆうんなら…
もっとそのエゴ、貫き通さなあかんとちゃうんか?
マンU マツモト (単行本11巻)
同じくマドリードFC戦で。
過去の事件を悔いながらもフットボールを辞めることはできないシンプソンでしたが、この試合で己の過去と向き合い、かつての自分を取り戻すことになります。
自らの過去と向き合う中で、フットボールをしたいという自分のエゴも理解して受け入れていきます。
汝、狭き門より入れ…
あなたが開くべき門はおそらくその場所でしょう…
シスター(シンプソン姉) (単行本11巻)
マドリードFC戦でついにシンプソンが覚醒をしたシーンで。
こちらも聖書からの言葉です。
シンプソンの実姉であるこのシスターは中盤以降の解説役として客席で大活躍です。なかなかいいキャラをしています。
これで実質4-3・・・
完勝や。
マンU マツモト (単行本11巻)
マドリードFC戦は4-2でマンUの勝利となりましたが、試合中マドリーのエース・サウルは自らのハンド(故意ではない)を審判が見逃していたとして、決定的なシーンでわざとシュートを外しました。
サウルの行為はフェアプレー精神によるものですが、マツモトはそれに納得がいっていませんでした。
その時に点をとられていたとしても勝利(4-3)となるように無理をして4点目を取りに行ったシーンでの言葉です。
勝利にこだわるマツモトらしいセリフです。僕個人の感想としては、審判が気づかずに笛を鳴らさなければそれはプレーの一環として続行するべきかなと思います。
後悔はしません…
悔い改める日々はもう終わりにします。
私は…心のままにフットボールがしたいのです。
マンT アルバート・シンプソン (単行本13巻)
マンUのライバルチームであるマンチェスター・タウン(マンT)に移籍することを決意したシンプソンの言葉。
マドリード戦でマツモトに諭されて自覚した自らのエゴ。それはマツモトと敵として戦いたいということでした。
ちなみにマンTは実在のチームではマンチェスター・シティであり、現実でもマンチェスター・ユナイテッドとシティは因縁のライバル同士で、この2チームの試合は「マンチェスター・ダービー」と呼ばれ非常に盛り上がります。一度は行ってみたい・・・。
なお、フットボールの世界では上記のマンチェスターの2チームのように同じ都市にあるチーム同士の試合は「ダービーマッチ」と呼ばれ、非常に盛り上がります。また、その2チーム同士・サポーター同士はお互いを特別なライバルと見ており、リーグ戦の順位や状況に関わらずダービーは「絶対に負けられない試合」となります。
【世界の有名なダービー】
・ミラノダービー(イタリア)
ACミランvsインテルミラノ
・ローマダービー(イタリア)
ローマvsラツィオ
・マージーサイドダービー(イングランド)
リバプールvsエヴァートン
・マンチェスターダービー(イングランド)
ユナイテッドvsシティ
・ルールダービー(ドイツ)
シャルケvsドルトムント
・マドリードダービー(スペイン)
レアルvsアトレティコ
・静岡ダービー
ジュビロ磐田vs清水エスパルス
・(今は無き)横浜ダービー
横浜マリノスvs横浜フリューゲルス
スペインの2台巨頭であるレアル・マドリードとバルセロナの試合(エル・クラシコ)のように都市は違ってもダービーマッチとして扱われることがありますが、それはまたの機会に。
巨人対阪神みたいな感じかな。
これが・・・
”神の賜物(カリスマ)”の力!!
マンU監督 アリステア・チャーチル (単行本14巻)
本作の最終戦となるマンU対マンTの「マンチェスターダービー」でマンTに移籍したシンプソンの活躍を見て。
監督としては自らの教え子であるシンプソンが敵チームに渡って、新の実力を発揮しているのを見るのは複雑な心境だったのでしょう。
「神の賜物」と書いて「カリスマ」と読ませる。中々センスのいい言葉選びがされているのもこの作品の特徴です。
天に見放されても・・・
一緒に濡れてくれるサポーターに、見放されなかったらええねん!!
マンU マツモト (単行本16巻)
マンチェスターダービーの終了間際、ラスト数分で1点を追うマンUでしたが、文字通り水を差すように雨が降り出します。「天にも見放された」と揶揄する相手チームに対してマツモトが返した一言です。
個人的には作中で一番好きなセリフかもしれない・・・。
日本でも屋根のないスタジアムは多く、試合中に雨が降れば選手だけでなくサポーターも一緒にずぶ濡れになります。
サポーターは「選手と一緒に濡れて戦う」という気持ちで応援をするわけですね。
ちなみに実際は雨が降りそうな日はレインコートを持っていきます。また、現地で買えたり配ってくれることもありますが、ひどい雨の時はそれでもびしょ濡れです。それも醍醐味の一つでして、びしょびしょになりながら知らない人たちと応援するチームの勝利を喜び合うのは、ずぶ濡れの苦労も相まって中々楽しいものです。
なお、負けた時はさっさと帰って風呂です。
人と関わることでしか、人はその存在を現すことができない。
今までマツモトがチームにしてきたことを、今度はチームがマツモトにしてあげればいい…
マドリード監督 モリウーニョ (単行本16巻)
これまで勝利請負人としてメンバーの意識改革をも含めてチームを強くしてマツモトでしたが、チームが強くなれば自分の居場所はなくなってしまいました。
記憶がないこともあって自分の居場所を見つけられない「透明人間」でしたが、マンUという超プロフェッショナルのチームにきて大きな変化がおきることになります。
なお、この言葉を言っているモリウーニョのモデルは、いくつものチームをヨーロッパ王者に導いた”スペシャルワン”、ジョゼ・モウリーニョ監督です。
この漫画が連載されている当時はスペインのレアル・マドリードの監督であり、作中と同じでした。2017年現在はなんと、作中の主人公マツモトのチームであるマンUのモデル、マンチェスター・ユナイテッドの監督をしています。
この監督は発言も非常に取りざたされる(日本でいえば炎上?)ことが多く、Wikipediaなどでも語録がみれますのでそちらもおススメです。
神が手心を加えたとした思えねェ!!
マンU ロジャース (単行本17巻)
体力を消耗した試合終盤にいくつもの偶然も含んだ神がかり的なパスを通したシンプソンに対して。
実際にプレーをしたことがある人間からするとありえないパスですが、「漫画だからね」で済ませない説得力を感じるところが、僕がこの作者さんは「天才的なライバルを描くのがうまい」と言っている所以となります。
今まで通りさ。勝って不可能を可能にする…
これからもオレたちは、
勝利請負人だ。
サカザキ (単行本17巻)
マツモトの記憶も戻って過去も明らかになり、色々と身の回りに変化のあったメンバーでしたが、勝利請負人であることは変わりませんでした。
最後までこの言葉がキーワードでした。
さいごに
一言でいうとオトナのファンタジスタです。(続編ではないのでこちらの作品だけでも十分にお楽しみいただけます。)
サッカー漫画では基本ストライカー大好きな僕ですが本作ではそこまでオラオラ系のストライカーがいないので、一番の推しキャラはライバルのシンプソンです。繰り返しになりますがこの作者さんは天才的なライバルキャラを描くのが上手ですね。
連載開始からコミックスで追いかけていた作品ですが、毎回発売日が楽しみにしていた思い出のある印象深い作品です。
サッカー好きの方はぜひ一度手に取られてみてはいかがでしょうか。
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